都市伝説二大巨頭? いえいえ可愛い塗り絵です:『メリーちゃん花子さん』

(2年前の下書きが出てきたので公開します)

こないだ、例のごとく図書館の端末の「かんたんフリーワード検索」みたいなので馬鹿みたいに花子さんと入力したら、1978年に刊行された本で『メリーちゃん花子さん』というのがあるのを見つけました。何度か年代順で検索をかけたことはある筈なんだけど、このタイトルは初めて見たのでびっくりした。というのももしこれが、あの「花子さん」についての本ならば、間違いなくその手の中で最古の本だからだ。

ご存知の通り、学校の怪談ブームが巻き起こるのは1989年から90年代のあたり。89年には年6冊、94年には年に53冊もの「学校の怪談」関連本が出版されている(厚徳社『「学校の怪談」はささやく』一柳廣孝編、2005年より)。これより以前となると、1987年に松谷みよ子が『現代民話考7 学校 笑いと怪談・子供たちの銃後・学童疎開・学徒動員』で花子さんを含む怪談を紹介しているのが、遡れる限界。 

いないいないばあ (松谷みよ子 あかちゃんの本)

いないいないばあ (松谷みよ子 あかちゃんの本)

 

 松谷みよ子て誰だっけ? とずっと思っていたのですが、いないいないばあの人でした。いないいないばあの人、何気に現代民話・怪談を活字化するパイオニアです。

 

もちろん花子さんの怪談自体は、1948年にはすでに学校で語られていたし、トイレの幽霊自体は江戸時代のおよねさんまでだって遡れちゃう。けどブームの前に出版されていた本てそれだけで価値あり。はやる気持ちを抑えて、いつもの通り「ちびっこ本の森こーなー」の背の低い棚をめぐっていると、ありました。 

あ……想像したのと違った。というか塗り絵だった。

 

この「きいちのぬりえ」は、昭和20~30年を中心に大流行した蔦屋喜一の塗り絵を、78年にまとめた本でした。「ぬりえ美術館」の紹介によると、流行時には月に平均して100万部、最高で160万部の塗り絵セットが販売されていたとか。僕のガバガバ計算によると、昭和25年の5~9歳の女の子の、約4人に1人がこの塗り絵を毎月楽しみにしていたことになります。

この塗り絵で面白いのは、日本風の女の子は、人形だろうが人だろうがみんな「花子さん」で、洋風の子は人形だろうが人だろうがみんな「メリーちゃん」という名前な点。

 これ、学校の怪談や「トイレの花子さん」研究的には何の役にも立たないと思ったけど、意外と使えるかも。

ポイントは3つ:
①昭和半ばころまでの児童に大流行していた
②「花子さん」が人だったり人形だったりする
③メリーちゃんという名前の人形の登場。

 

いうまでもなく学校の怪談や都市伝説なるものは、オトナたちがブームを巻き起こさせる以前から、子どもたちの間でささやかれ続けてきた。90年代のブームの際は、最新式の怪談である「首無しライダー」や と一緒に、70年代に日本中で大パニックを起こした「口裂け女」やこれも戦前までさかのぼれる「赤い紙青い紙」、そして俺たちの「花子さん」が同じ学校や町の中を跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)していたし、そもそも学校という空間が、何世代も前からずーっと同じところにあって、交代していく子供たちが通り抜ける空間だ。

花子さんはどうして花子さんなの? という話がある。三原幸久は尋常小学校国定教科書を調べて、大正7(1918)年に「花子」という名前が教科書に初登場、以降戦前の国定教科書ですでに、女の子の代表的な名前として花子が使われだしていることを見つけています(『魔女の伝言板』より)。すごい。それで学校になじみ深く、また実体をもたないということから、「トイレの怪異」と「教科書やテストの名前記入例の代表である花子」が合体して「トイレの花子さん」という呼び名がついた、という。